御家流で書かれた公文書を読み解こう
日時:令和5年12月18日(月)
講師:権田恒夫氏
右は川越市内の看板です。それぞれ昔の文字が使用されています。気を付けて見ると、身近な所にも昔の文字があることがわかります。今回は御家流で書かれた公文書を読み解きます。
公文書の様式の変遷
公文書の言葉遣いは以下のように変遷しました。
- 古 代:中国から伝わった漢文で書く。
- 中 世:日本的な漢文で書く。
- 近 世:御家流書体の漢字と平仮名、変体仮名、カタカナで「候文」を書く。
- 近 代:旧字体楷書の漢字と平仮名、カタカナを遣い、書き言葉で書く。
- 現 代:新字体楷書の漢字と平仮名、カタカナ、ローマ字を遣い、話し言葉で書く。
江戸時代、公文書は、御家流の書体で日本風の「候文」を書いていました。そして、正字と異体字、平仮名(45字+ゐ・ゑ・を)、変体仮名(285字)、カタカナ(45字+ヰ・ヱ・ヲ)、合字(より・こと・シテ・トキ・トモ)が使われていました。御家流は、鎌倉時代、伏見天皇の皇子で青蓮院門主の尊円親王が創始した書体で、江戸時代に公用書体に採用されました。
手習塾から義務教育へ
手習塾では楷書は全く教えず、簡略した字体で覚えやすい崩し字(御家流)を指導しました。しかし、出版物は行書が使用されています。崩し字は読む上で曖昧さがつきまとうので、字形と文脈の両方を睨みながら読む必要があります。一方、楷書は覚えにくく書きにくいのですが、文字の曖昧さは少なくなります。
明治33年(1900)、文章の書き方が言文一致体になり(公文書はカタカナ書き)、楷書の旧漢字と平仮名(45字+ゐ・ゑ・を)、カタカナ(45字+ヰ・ヱ・ン)で表すようになりました。そして、平仮名は一音に付き一文字に統一し、それ以外を変体仮名(85字)としました。
戦後、新字体の漢字と平仮名(46字)、片仮名(46音)、ローマ字(小文字26字・大文字26字)を学習するようになります。常用漢字2136字と教育漢字(小学校1026字・中学校1110字)を学び、新仮名遣いと送り仮名、書き順の決まりも定められました。
※ 異体字:標準字体と異なり、正字と意味と発音が同じで通用した漢字。
※ 変体仮名:戦後、教育現場で教えられなくなり、「消えた平仮名」となった。
※ 新字体:昭和21年(1946)、内閣告示の当用漢字表で新たに制定される。
御家流で書かれた公文書を読み解く
徳川家康朱印状(折紙) 天正19年(1591)11月 さいたま市 西角井家文書
寄進浄音寺/武蔵国崎西郡末田村之内/参石之事/右令寄附訖/殊寺中可為/不入者也仍如/件/天正十九年辛卯/ 十一月日 [印(家康)]
≪書き下し文≫
寄進浄音寺/武蔵国崎西郡/末田村の内/参石の事/右寄附せしめ訖ぬ/殊に寺中に/入らせざるべき者也/仍って件の如し/天正十九年辛卯/十一月日 [印(家康)]
徳川家光朱印状 慶安2年(1649)8月24日 春日部市 正樹院文書
武蔵国足立郡木崎村
正樹院領同所之内拾四石
事任先規寄附之訖全
可収納並寺中山林竹木
諸役等免除如有来永
不可有相違者也
慶安二年八月二十四日
[印(家光)]
≪書き下し文≫
武蔵国足立郡木崎村/正樹院領同所の内十四石/事先規に任せ寄附せしめ訖ぬ/全て収納すべし並びに中山林竹木/諸役等免除有り来りの如く永く/相違有るべからざる者也/慶安二年八月廿四日[印(家光)]
豊臣秀吉朱印状 天正18年(1590)7月 さいたま市 星野家文書
禁制 足立郡之内
浦和宿
一 軍勢甲乙人等乱防猥籍事
一 放火事
一 対地下人百姓非分儀申懸事
右条々堅令停止訖若於違犯之
輩者怱可被処厳科者也
天正十八年七月日[印(秀吉)]
≪書き下し文≫
禁制/足立郡の内/浦和宿/一 軍勢甲乙人等乱暴狼藉の事/一 放火の事/一 地下人に対し百姓非分の儀申懸の事/右の条々堅く停止せしめ訖ぬ違犯の輩は/怱ち厳科に処せらるべき者也/天正十八年七月日[印(秀吉)]
受講生感想
・変体仮名の元の漢字(字源)を教えて頂き、難解でとても覚えられそうにないが興味深くおもしろかったです。
回答:変体仮名に興味を持って下さり、ありがたいです。現在の五十音表記と比べ、変体仮名はたくさんあるので、一覧表を机の脇に置いて読み取ってください。
・古文書は初めて学びました。丁寧な説明で良く分かりました。
回答:初心者は先入観がないので、覚えるのが早いと思います。
・現在まで口語で生活しているのでとても難しいお勉強でした。
回答:口語文で生活している現代人は、旧仮名遣いの文語文に慣れると良いです。
・変体仮名を読むとっかかりになりそうです。
回答:変体仮名に興味を持つと、あちこちの歌碑や句碑が読みたくなるでしょう。
・古文書が読めたらなぁ!と思って受講しましたが、やはり難しいと感じました。自学自習しないとダメですね。権田先生のお話はとてもおもしろかったです。
回答:前もってプリントを見て置き、読み取れなかった文字だけを注視して講座を受けると、 古文書解読の進度が早くなると思います。
・読み方が何通りもあって覚えるのが大変だと思いました。
回答:変体仮名はたくさんあるので、覚えるのは大変です。
・エピソードが多く楽しかったです。
回答:古文書を読むだけでなく、歴史的背景を知ると古文書が面白くなります。