もっと知りたい江戸時代の狭山
~古文書読解文よりひもとく庶民の暮らし~
◎ はじめに
さやま市民大学通期講座「狭山の歴史講座」の姉妹編となる新講座「もっと知りたい江戸時代の狭山」が、去る令和6年2月1日より開講されました。想定を超える大変多くの受講生が集う講座となりましたので、そのあらましについてお知らせします。
1. 本講座の概要
(1)講座日程
令和6年2月1日(木)~令和6年3月14日(木) ※全5回のうち3回まで終了
開講時間:13時30分~15時30分 会場:狭山元気プラザ大会議室
(2)講座のねらい
本講座は、私たちが暮らす狭山地域のことをもっと知りたい方や興味のある方を対象にし、江戸時代の狭山の人々の生活や暮らし、地域社会の成り立ちや仕組みなどについて、その実際を楽しく気軽に学べる講座として編成しました。
(3)本講座のアピールポイント
・古文書と古文書読解文・読み下し文・レジュメをテキストに使いますが、講師が一つずつ分かり易く説明しますので、古文書が読めなくても気軽に学べる講座になっています。
・古文書を原本とし江戸時代の暮らしを様々な角度からひもとくので、当地域の人々の実際の暮らしぶりや社会の仕組み、主要産業や女性の地位などについて、とても身近に感じることができるカリキュラムになっています。
・「江戸時代の狭山」に焦点を当て、深掘りした内容なので、「狭山の歴史講座」の修了生でも、そうでない方でも、楽しく興味深く学べる講座になっています。
(4)講師の紹介
講師の髙橋先生は、「狭山市史」編纂事業の専任担当として当初から刊行まで一貫して取り組まれており、「狭山市史」に関する大変幅広く奥行きの深い、実地の知識をお持ちです。また、元狭山市立博物館館長のキャリアを持ち、現在も狭山市文化財保護審議委員会の委員長として活躍をされています。落語にも造詣が深く、お話がとっても面白い講師と評判です。
2. 講座風景
3. カリキュラムと各回のポイント
第1回講座 (村の自治の仕組みを学ぶ)
テーマ ⇒ 名主・組頭などの村役人の仕事 ~村民と領主の狭間で~
ポイント ⇒ 江戸時代の村民は領主に虐げられていたイメージがあるが、古文書に書かれた実際の記録から、村は村民の相互扶助による「自治」を中心にし、運営されていたことが分かる。
第2回講座 (村の自治の仕組みを学ぶ)
テーマ ⇒ 五人組というコミュニティ ~相互監視から相互扶助へ~
ポイント ⇒ 豊臣秀吉が設置した当初の五人組制度は、相互監視と連帯責任が主目的であったが、18世紀後半になり相互扶助の割合が高まり、組合員が身近なコミュニティとして相互に助け合う仕組みとして浸透していく。
第3回講座 (村民の実際の暮らしを学ぶ)
テーマ ⇒ 農民がコメを食べていたというのは本当?~御触に残る驚くべき一文~
ポイント ⇒ 天明6年「御殿様被仰渡連判帳」に「朝夕炊き候米柄…」とあること。天保8年「柏原村の盗難届」に「白米壱斗五升程」とあることから、当時農民が米を食べ、暮らしにも多少のゆとりが生まれていたことが分かる。
第4回講座 (村民の実際の暮らしを学ぶ)
テーマ ⇒ 旅に出た農民 ~お伊勢参りから西国観音霊場巡りへ~
ポイント ⇒ 市域に残る最古の霊場巡拝供養塔は正徳6年(1716)のもので、この頃から農民は個人または団体で霊場巡拝に出掛けていた。旅に出る農民は往来手形、道中日記を携帯。一日に歩く距離は男性9~10里、女性は8里位。
第5回講座 (当地の主要産業と女性の地位について学ぶ)
テーマ ⇒ 養蚕地帯の女性は強かった?~オシラ講を規制する通達は何を物語る~
ポイント ⇒ 江戸時代から市域の養蚕は盛んで、養蚕に従事する女性のみの講・オシラ講に名を借りた遊行が規制された。養蚕は直ぐに現金化できる仕事のため、女房はありがたい存在であり、亭主らはその遊行を放置していた。
4. 本講座で使用した四つのテキスト
・使用テキスト①「レジュメ」
⇒ 各回の講義の柱となる部分を箇条書きにしたもの
・使用テキスト②「古文書」(基本テキスト)
⇒ 当地域に残る江戸時代の「古文書」のコピー
・使用テキスト③「読解文」
⇒ 古文書にある“くずし字”を一文字ずつ判別した文章
・使用テキスト④「読み下し文」
⇒ 上記で読解した文章に句読点や「てにをは」などを加え、「仮名漢字交じり文」に書き換えて、日本語として読めるようにした文章
※ 講師が各回の講義の柱となる「レジュメ」を基に、「古文書」⇒「読解文」⇒「読み下し文」の順番に、一つずつ分かり易く丁寧に、楽しく講義を進めています。
5. 受講生の感想
① 古文書ド素人の私。一の一から説明していただき、すぐに不安は解消。読み下し文を中心に進むお話に引き込まれていきました。江戸時代の社会は思っていたより民主的でした。農民は逞しく、したたかに生きていました。とにかく話が面白い、ためになる。「村八分の後の二分は葬式と火事」……残りの二分のことなんて考えたこともありませんでした。他の方の質問は自分にはない視点で、その答えを聞くことはとても勉強になります。その場で答えられない質問にも、後日きちんと対応されているところに講師の講座に対する誠実さを感じます。狭山の地名が出るたびに講座に親近感を覚えます。これからは狭山を見る目が新しくなりそうです。
② 第1回の講義で村役人が話し合いや選挙で選出され、それを領主が任命すると聞き、江戸時代は思っていたより民主的だったことが分かりました。江戸時代に全国に設置された五人組という組織も、連帯責任の相互監視から次第に責任を負う前に協力し合う相互扶助に変わっていった。しかも、今でいう保育所やデイ・サービスに近い機能もあったと聞いて驚きました。近所付き合いの少ない現代人よりよほど人間的ではないかと思いました。第3回では領主の御触が紹介され、米穀を余計に炊かないと書かれていることや、柏原村の盗難届に白米とあることなどから、農民が米も食べていたことを知りました。毎回新しい発見と驚きの連続です。
6. おわりに
本講座は、令和5年度さやま市民大学後期講座として初めて開講したものです。
市民大学の通期講座の中で最も伝統のある「狭山の歴史講座」の修了生より、当地域の歴史にスポットを当てた新しい講座の開講を求める声がこれまで沢山寄せられていました。
その声に応えるため、今回、江戸時代の狭山の人々の実際の暮らしに焦点を絞り、深掘りした講座を開講する運びとなりました。基本テキストである「古文書」に記録されている様々な事柄は、江戸時代の当地域の人々の暮らしの軌跡であり、その行間から庶民の息吹も聞こえてきます。
今回取り上げた5つのテーマは、その一部の事柄でありシリーズ化も可能と考えています。
ふるさと狭山をより良いまちにしていくためには、その礎となる郷土の歴史、伝統文化、先人の偉業等をきちんと次世代に継承していくことが大切だと思います。
そのような視点から、令和7年度にさやま市民大学が再び開校される時には、是非、「狭山の歴史」講座とともに本講座「もっと知りたい江戸時代の狭山」の復活を心より願うものです。