御家流で書かれた書状や証文を読み解こう
日時:令和6年1月15日(月)
講師:権田恒夫氏
身近な古文書
狭山市笹井・白鬚神社の芭蕉句碑に、「武蔵野や 一寸程の 鹿の声(広大な武蔵野では、あらゆるものが小さく感じられ、鹿の長鳴きさえ一寸くらいの印象になる)」(延宝3年/1675)とありますが、「の」は「な」の書き間違いだそうです。常々、「古文書の読解は漢字より仮名が難しい」と言っている権田氏。古文書学習には「変体仮名の学習は避けて通れない。散らし書き(和歌や俳句を散らして書くこと)し、異体字も使われている」とのこと。広瀬東の広瀬神社にある埼玉県令白根多助の歌碑は、変体仮名と漢字を連綿体(続け字の書体)で散らし書き(書き出しの位置や行の長さ、行間に変化をつける)し、魚子織の華やかさを和歌で表現しているそうです。
殿と様の違いは?
時代劇でよく使われる「殿」。殿は自分よりも目下の者か同位の人に遣い、「様」は地位の上下や男女の区別なく使います。敬意順で「様→公→殿→君→とのへ」でしょうか。鎌倉時代、「鎌倉殿」は「将軍」のことでしたが、室町時代には将軍を「室町殿」というようになり、「鎌倉殿」は「鎌倉府の長官=鎌倉公方」になったとのこと。時代によって、言葉の遣われ方が変遷するのですね。生前は「淀殿」と呼ばれましたが、江戸時代には「淀君」と言われるようになります。ちなみに、埼玉県警の賞状の敬称は「殿」ですが、埼玉県庁の賞状の敬称は「様」だそうです。
明治期の書状
次に、熊谷市出身の権田氏の実家に眠っていた、権田家所蔵文書『漢語 両点早字引』(明治13年/1880)を読み解きます。高祖父が利用していた、手紙文の文例を紹介する本だそうです。目次に、「年始之文」「歳暮の文」「出火見舞の文」「病気見舞の文」「金円借用証」「建屋書入証」等から「離縁状(三行半)」まで掲載され、興味が尽きませんでした。
【 年始之文 】
年始之文
新暦之嘉祥万方/同軌目出度申納候先/以高堂愈被為唱松/柏之頌奉恭慶候次ニ/蝸屋一同無変加齢/仕候間乍憚御放慮可/被下候聊年甫之祝/詞を表し御左右伺度/如斯ニ御坐候書外期拝/謁之時候恐々謹言
≪書き下し文≫
年始之文
新暦の嘉祥 万方/同軌に目出たく申し納め候/先ず以て高堂愈々松柏の頌/唱えせられ 恭慶奉り候 次に/蝸屋一同変わりなく加齢/仕り候間 憚ながら御放慮/下されべく候 聊 年甫の/祝詞を表し 御左右伺ひたく/斯くの如くに御座候 書外/拝謁の時を期し候 恐々謹言。
【 寒中見舞之文 】
≪原 文≫
頃日者霜威凜洌殊ニ/難堪候処貴家一同/御健勝被成暢慶之/至ニ奉存候小人依旧無/事ニ罷在此段御休神/被下度随而此品不捵/にハ候得共任有合呈/進致し候余者拝顔/万媵可申述候也
≪書き下し文≫
頃日は霜威凜洌 殊に/堪えがたく候処 貴家一同/御健勝成され暢慶の/至りに存じ奉り候 小人は旧無事/ニ罷り在り 此の段御休神/下され度 随って此の品不捵/には候得共 有合せに任せ/呈進致し候 余は拝顔/万媵申し述ぶべく候也。
【 離縁状(三行半) 】
一何某殿媒酌を以て夫 一つ 何某殿の媒酌を以て夫
婦たるの処今般離縁 婦たるの処 今般離縁
送籍候然る上ハ自由た 送籍候 然る上は自由た.
るべく候 依而如件 るべく候 依って件の如し
年月日 何 某 年月日 何 某
たれどの たれどの
「『ミミズが這ったような文字が、読めたら楽しいだろなぁ』という好奇心から始めた古文書。最初は珍紛漢紛でしたが、文章の前後関係から少しずつ読み取れるようになりました。『継続は力なり』です」と、おっしゃる権田氏。講座では、受講生全員が狭山古文書勉強会発行の狭山古文書叢書第22集『温泉場逗留中の記(下)』を頂戴致しました。次回は最終講義になります。
受講生感想
・高祖父さんの「漢語 両点早字引」。文字をなんとか読めても、1つ1つの言葉の意味がまったく分からないことに気が付きました。古文書はとても奥深い、と実感しました。
回答:漢語を遣った手紙文なので、私には難解な書籍でした。戦前まで、庶民は「候文」で手紙を書いていました。本書は、崩し字を学べる、格好の古文書教材の一つです。もっと分かり易い手紙文の字引があったら、良かったのですが。
・前回、欠席してしまったので、とても難しく感じました。お話はおもしろかったので、いただいた資料を家で読もうと思っています。さやま市民大学のホームページで講座報告を見せてもらいます。
回答:ホームページは、高橋さんが解かり易くまとめています。もし、聞き逃したこと等がありましたら、復習時に活用してもらえるとうれしく思います。
・古文書を入手できる古本屋さんを教えて下さい。
回答:東京都神田の古書店などで、結構な値段で古文書を販売しています。埼玉県さいたま市の県立文書館(埼玉県庁の間近)では、何万点もの古文書が選り取り見取りです。館内で読んだり、コピーして自宅でじっくり学んだりすることができますので、ご活用ください。古文書を持っている方がいたら、貸してくれることもあるかも。本物は、とても読み易いです。これからも古文書を楽しんでもらえたら、幸せです。