体力トレーニング
日 時:9月24日(土)10:40~12:10
講 師:早稲田大学准教授 平山邦明先生
受講生:出席8名
中学高校時代はラグビー、大学に入ってからはウエイトリフティングをしてきたという平山先生は、長年アスリートを中心にサポートをしていらっしゃいます。現在は大学のウエイトリフティング部のトレーナー兼コーチや実業団ボート部のフィジカルトレーナー、また高齢者ボートクラブのアドバイザー等もしているそうです。今日は、「運動すればするほど健康になれるのか」という話から始まりました。週97㎞以上走る人と週32㎞未満の人を比べた場合、風邪をひく可能性は97㎞以上の人の方が大きいというグラフが示されました。運動量が少なくても風邪にかかりやすいのですが、97㎞以上になると運動量の少ない人の倍にもなっていました。健康づくりのための運動は適量が良く、運動量が週3000kcalを超えると虚血性心疾患による死亡率が高くなるという研究結果もあるそうです。
レジスタンス(筋力)トレーニング
さて、本題のトレーニングの話。筋力トレーニングとは、日常生活では必要としない特別な運動をして運動能力を向上させることです。スクワットや腕立て伏せ、ダンベル運動などが良く知られています。筋線維には速筋と遅筋がありますが、それぞれの線維の数は生まれた時から変わらないそうです。大きな力を持つがすぐにバテる速筋、それに対してあまり大きな力は無いが持久力のある遅筋。運動を始めてすぐは遅筋しか使われず、運動強度が上がってくると速筋が使われます。負荷をかけ続けることで筋肉が太くなったり、持久力がついたりします。さらに、骨、軟骨、腱などが強化され、けがやサルコペニアの予防、糖尿病や癌などのリスク低下も見込まれるとか……。筋トレで骨密度が増加したという報告もあるそうです。日常生活ではだいたい遅筋線維しか使っておらず、サルコペニアでは使っていない速筋から委縮してくるそうです。従ってサルコペニア予防には速筋線維を増量するようなトレーニングを心がけなければなりません。
エンデュランス(持久性)トレーニング
持久性トレーニングとは、リズミカルに、持続的に行われる心肺機能を高めるトレーニングのことです。最大心拍数(220-年齢)の60~85%、60歳の人であれば96~135位の心拍数になる強度の運動を持続することで、呼吸循環器機能の向上の他、体脂肪の減少、血管の柔軟性向上、心疾患予防や抗うつ作用、認知機能の向上などが見込まれます。健康づくりのための有酸素運動は、会話ができる程度の運動を1回60分以下、週に5回ほど実施します。ただ個人差があり、これでは心拍数が上がらないという場合はもう少し強めの運動にする必要があります。持久力を上げたい場合は、急に会話がしづらくなる程度の強度でやると良いそうです。私たちが疲労物質だと思っていた乳酸が出るのは糖が使われているということで、速筋が使われている状態なのだそうです。乳酸が出始めるのは運動中会話がしづらくなる程度の所です。実際に行う時には、会話ができない強度で3分間歩き、その後3分は会話が楽にできるペースで歩くことを繰り返す等工夫すると良いとのことでした。
トレーニングの始め方と終わり方
運動前には必ず体調チェックをします。血圧は180/105mmHg以下、心拍数100拍/分以下、食事後2時間経過、睡眠不足等の時には要注意!また、筋肉傷害・不整脈予防のためのウォームアップとクールダウンは5~10分かけて必ず行ってくださいとのことでした。心疾患事故の72%は、トレーニング中ではなく、ウォームアップ・クールダウン時に起きているそうです。
質疑応答
「毎日腕立て伏せを3~40回やっているわりには筋肉がつかないが、頑張って回数を増やした方が良いか」
→ 3~40回やった後に、つま先でやっていたら膝に変える等負荷を軽くしてさらにやる等すると良い。息を止めずにやることが大事。
「スポーツ選手の子どもが同じ競技で活躍することがあるが、遺伝で適性が分かっているからやらせるのか、いろいろな競技をやってから適性を見つけるのか」
→ 速筋系の親御さん同士のお子さんが速筋系の競技で活躍しているのは良くある事例。遺伝子検査で速筋と遅筋のどちらが多いか分かるが、そんなに簡単な検査ではなく、筋肉の場所によっても違う。思った通りにはいかないのではないか。
「ウォーキングでは息が上がるくらいにしないと速筋線維は充実しないそうだが、速筋が衰えるとサルコペニアになりやすい。高齢者はきつい運動は無理なのでどうしたら良いか」
→ 階段の上り下りが効果的。特に階段を下りる運動が良い。筋肉は縮むことしかできず、無理に伸ばされると筋肥大に効果がある。エレベーターで5階まで昇ってゆっくり歩いて下りて来る方法で筋肉が大きくなったとの報告もある。坂道でも下りで足が痛くなるのはご承知の通り。週3回ほど続けると良い。いつもより重心を2㎝下げて歩く等でも良い。
受講生感想
◆ 体力トレーニングに関して運動全般の概要を掴むことが出来ました。「防衛体力」「遅筋」「速筋」など初めて聞く単語が沢山出てきてちょっと難解な感じもしましたが、ただの健康談話ではなく、体系だった話を聞くことが出来て勉強になりました。マラソン選手と短距離ランナーが筋肉を質的に変化させる為にそれぞれ特別なトレーニング方法で汗を流している背景が分かって興味深かったです。
◆ 今日の講義は聞きなれない言葉が多くとても難しかったです。最初の「運動すれば健康になるか?」の問い、以前「過度の運動は免疫力を低下させるので良くない……」と訊いたことがあり、その意味も分からず、運動はもちろん何事にも無理をしないよう過ごしていました。でも講義で、どの機能をどのように動かすかによって、身体の何がアップされるかが少し分かりました。この年になって、いま自分は何をアップさせたいかという“行動体力”を考えられるようになりました。また初めて「乳酸」が溜まることは悪い事ではない、と知りました。そして乳酸が溜まることは「使うエネルギ―が酸化系から解糖系に、筋肉が遅筋から速筋に変わっていっているから」……ということは、乳酸が溜まって来た~と感じても、もっと運動を続けても構わないということなのかと思いました。こんな解釈でいいのか不安ですが、頂いた資料を参考にして、運動の限度は身体と対話しながら試してみようと思います。
◆ トレーニングとは身体の運動遂行能力を向上させて、発揮するパワーを増大する事、レジスタンストレーニングは高齢者だからこそ可能な範囲で実践しなければならない事が解りました。筋肉の働きや鍛え方・やりすぎの弊害、そして運動時のウォームアップ・クールダウンのエビデンスも理解することが出来ました。生活活動では筋肉を鍛えることは難しいことも解り、現在、百歳体操・ポールウォーキングを週1回おこなっていますが、継続が必須と考えております。
◆ スポーツといえば「筋トレ」しかない私。本日の講義を学び、トレーニングの大切さ実感した。世界で活躍されているアスリート、特に大谷翔平に注目している。ホームランを打つことは大変な労力だそうだ。彼はどのような筋力トレーニングをしているのかと思った。