健康づくりのための食事と栄養
~ 食事が変わればあなたが変わる ~
日 時:9月10日(土)10:40~12:10
講 師:早稲田大学教授 田口素子先生
受講生:出席8名
スポーツ栄養学を専門にしている田口先生は早稲田大学スポーツ栄養研究所の所長としていろいろな企業と連携しながらスポーツ栄養の研究をされています。若い頃はバルセロナオリンピック陸上競技選手団の管理栄養士として帯同、有森裕子選手のサポートもされたそうです。日本スポーツ栄養学会の初代会長、日本陸上競技連盟医事委員会スポーツ栄養部長等の要職も務められています。
今までは若い人たちの支援が多かった先生ですが、本日は私たち高齢者のための食事の話をしていただきます。早稲田大学では高齢者対象のプロジェクトに参加していたとのお話で、後半はその紹介もしていただけるそうです。
高齢者が気を付けるべき低栄養とサルコペニア肥満
65才位までは生活習慣病予防で過栄養の解消に取り組むことが多いのですが、それ以降は低栄養になりやすく、フレイル予防に取り組むことが必要です。フレイルとは高齢になり、筋力、認知機能、社会とのつながりが低下した状態を言います。低栄養から筋肉量が減少し、衰え、活動量が減り、食欲がわかず食べられない状態になり、低栄養になるというように、フレイル・サイクルによってフレイルは進行します。
低栄養状態とはどんな状態でしょうか。エネルギーとたんぱく質が欠乏した状態で、症状としては、体重減少、運動機能の低下、皮膚の異常(浮腫や褥瘡)、免疫力低下による日和見感染等があげられます。低栄養のリスクは、BMI値(肥満度を表す体格指数)、体重減少率、血清アルブミン値でおよそ判定できます。65才以上の目標BMI値は21.5~24.9の間です。厚生労働省の大規模調査では、その値の死亡リスクが低くなっていました。高齢期になってのやせは要注意。1カ月に体重が3~5%を超えて減ると死亡リスクが増えるとのことでした。3つ目の血清アルブミン値とは聞きなれない言葉ですが、「2~3週間のたんぱく栄養状態」のことです。やせや低栄養状態だと死亡リスクが1.6倍にもなっていました。ここで注意すべきは、若い頃と体重や体形があまり変わらなくても、筋肉が脂肪に置き換わった「サルコ(筋肉)ペニア(不足)肥満」だそうです。病気や要介護、寝たきりになるリスクが高まります。
食品摂取多様性の効果
では、どんな食事をしたら良いのでしょうか。食の多様性が高いほど筋量の低下が少ないという研究結果があるそうです。多様な食品の複合効果によって筋量や身体機能の低下が抑制されたのではないかということでした。主食、主菜、副菜をそろえ、1日1回乳製品と果物を摂ることを心がけるだけで、バランスの良い食事に近づきます。そうは言っても……という方は、少なくとも1日1食は「1汁3菜」に。たんぱく質は男性60g、女性50g以上摂ることが大事で、朝食に摂ると筋肥大に効果があるそうです。これは普通の食事で十分摂れるので特にサプリメント等は必要ないとのことでした。あると便利なたんぱく質のちょい足し食品も紹介していただきました。最近では、コンビニでも調達できます。
イヌリン効果は絶大?
最後に内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム」の早稲田大学研究班による研究成果もお話しいただきました。菊芋に含まれる多糖類の一種のイヌリンは、血糖値上昇を抑えたり、ミネラル吸収を良くしたり、抗炎症作用などがあるそうです。菊芋は最近農産物直売所などで見かけるようになった野菜です。10~11月が収穫期だそうで、まさにこれからが旬です。パウダー状になったものも売られていますが、やはり食品として摂る方が良いそうです。また、イヌリンと運動、カルシウムの組み合わせは骨密度を増大させること、夕運動は骨密度低下を予防することなども動物実験で分かっています。
最後に「噛むことは脳に刺激を与え、消化吸収を良くし、口周りの筋肉を維持します。いきがい講座の目標である生涯現役人生を送るためには、『食べる』『噛める』『飲み込める』ことが大事です」と話を締めくくられました。
受講生感想
◆ 生涯現役人生のためには食事が重要であること、改めて理解できました。データに基づいてのお話で納得しています。菊芋は、なかなか手に取ることはありませんでしたが、田口先生の推薦を聞き、試してみようと思いました。
◆ 今回「BMI」の数値の見方について、しっかり学んだ気がします。今までは、数値が高ければ肥満や生活習慣病の原因になる……という認識しかありませんでしたので、下は低いほど良いと勝手に思っていました。新たな発見でした。先月末、高齢者特定検診・骨密度測定を受け、10月14日診断結果を聞きに行きます。いろいろ学んだ後で聞く結果はとても心配ですが、結果は結果として受け入れ、「プラス10」の精神で過ごして行こうと思います。
◆ これまでの受講で栄養・運動・休息(睡眠)そして社会参加が健康寿命維持に欠かせないことが解りました。現在の私は活動も社会参加も何とかできていますが、食事については栄養素は満たしていても品数が少なく、今秋受ける健康診断が気になっているところでした。たんぱく質も健康維持に必要なことは知っていましたが、不足することで易感染性や筋肉の衰えからの転倒等、負の連鎖で病気を引き込んでしまう状況の年齢になっていると自覚しました。多様な食物摂取の根拠も理解でき、課題を指摘された感があります。それを念頭に食生活を見直していきます。イヌリン、菊芋も興味ある食品で今後食したいと思います。新情報有難うございました。
◆ レジメが良く出来ていて、お話の内容が明瞭だったので、とても有益な講義でした。「腹囲85過ぎるとメタボ」という数字だけが先行していて、「でも、なんか変だなぁ……」と思っていましたが、今回の講義を聞いて納得出来ました。マスコミのつまみ食い的報道をそのまま信じちゃいけない……という見本のようでした。