ここちよい眠りのために
ー ウェル・エイジングと睡眠の最新知識 ー
日 時:8月27日(土)10:40~12:10
講 師:早稲田大学准教授 西多昌規先生
受講生:出席8名(欠席0名)
歳を重ねると眠りのことが気になりだします。今回は元精神科医で早稲田大学准教授、同大学睡眠研究所の西多先生にお話を伺います。先生は週に1回睡眠クリニックで外来診察しているそうです。年を取るほど睡眠は個人差が大きくなるので、本の「これをしたら良い」、テレビの「7時間寝ないとボケる」等のフレーズに引っかからないようにした方が良いとのお話から講義が始まりました。「80歳の壁」で知られる和田秀樹先生は「数値に縛られると不幸になる」と言っている、100%を目指すと返って良いことがない……とも。ウンチクの深い言葉です。
加齢と睡眠
高齢になるにつれ、睡眠は浅くなり刺激には過敏になるそうです。早起きになったり、尿意を感じて夜中に何度も起きたりするようになります。睡眠は眠りについた後に深いノンレム睡眠が訪れ、朝方になるにつれ浅い睡眠になります。レム睡眠時は眠りが浅く、目が起きているように動いたり、脈が速くなったり、血圧が上がったりしますが、大きな筋肉は動かないようになっています。夜明け頃に狭心症の発作等が多くなるのはこのためです。反対にノンレム睡眠では脳は休んだ状態で、成長ホルモンが分泌され、大事な言葉や体験記憶を定着させます。年をとるとこの深いノンレム睡眠が減ってきます。「成長ホルモン?関係ないよ」と言っているあなた、傷や壊れた細胞を修復するのもこのホルモンだそうなので、そうは言っていられません。しかも、深いノンレム睡眠中に脳から認知症関連物質も掃除されることが、この4~5年で分かって来たそうです。また、レム睡眠が長いほど長寿だということも最近分かってきました。レム睡眠の割合が5%減少するごとに死亡リスクが13%増えるというデータもあるそうです。
私、不眠症かしら……
ここから、不眠症の話。不眠症とは眠れないことを気に病む病気だと先生は言います。適切な睡眠時間の定義は無く、個人差があるので、日中そこそこ元気に活動できていれば不眠症とは言わないそうです。若い頃より睡眠時間が短くなるのは普通の事なのだとか……。「良く眠るためには、日中しっかり活動することが大事。パソコンに向かって講義を受けている場合では無い」なんて冗談も飛び出します。日本人は睡眠時間が世界で一番短いと言われていますが、長寿であることも知られています。良く眠るためには「太陽」「運動」「趣味」「会話」で上手に疲れること。「睡眠」のことばかり考えているのは「下手な」疲れ方だと続きます。
ただし、睡眠時無呼吸症は注意すべきだそうです。睡眠呼吸障害は睡眠不足、日中の眠気で認知症発症リスクが20%増加するそうです。また、今年発表された研究では、1日1時間以上昼寝をする人のアルツハイマー型認知症発症リスクは、1時間未満の人の1.4倍だったそうです。ただし、最近では某有名人のように昼間2~3時間寝る「分割睡眠」の方も多いそうで、睡眠についてはいろいろなデータを見ればみるほど多様性に富むとおっしゃっていました。
治療すべき睡眠障害は?
眠れぬ夜、睡眠薬を飲むべきか、飲まざるべきか……。迷う人は多いと思われます。先生によると、日中元気で活動できていれば問題は無いそうです。また、薬に頼る前に睡眠習慣を見直すことも必要だとのことです。ただ、前出の夜中に息が止まる「睡眠時無呼吸症」の他、寝る前に下肢の不快感を訴える「むずむず脚症候群」、夜中に夢遊病のように動いてしまったり、大声で叫ぶ等の異常行動をする場合には専門的な薬物療法が必要なので、早めに病院を訪れた方が良いそうです。
質疑応答
「睡眠時間5時間ほど。朝パッと目があく。ただし、昼間あくびが出ることが多いが?」
→ 睡眠時無呼吸症の可能性もあるのではないか。
「母も祖母も90以上までの長寿。私は長生きしたくないのだが……」
→ 癌家系、高血圧家系が良く言われるように、長寿も遺伝的要素が強いと思う。長生きしてください。
「いびきを和らげる方法は?」
→ 無呼吸症の症状かも。これは脳波をとらないと分からない。自覚と脳波は違うこともある。また、横向きで寝ると減ることが多い。抱き枕等使用することも良い。
「昼寝の時間帯はいつが良い?」
→ 半日リズムがあるので、昼位に眠いリズムが来る。12時~15時の間を推奨する。
「昼寝はしないが、夕飯後の8時ぐらいから眠くなり30分ほど寝てしまう。そのため就寝は夜遅くなってしまう」
→ 8時ごろ効くように3時か4時頃カフェインを摂ったら良い。
受講生感想
◆ たいへん分かり易い講義を聞かせて頂きありがとうございました。「寝るために生きるのではなく、生きるために眠る」という教えは超納得しました。睡眠問題で悩んでいる方は多いですが、「日中活動出来ていれば不眠症ではない」という先生の言葉を是非紹介しようと思います。また、西多先生は聴講生の考えを引っ張り出すのがお上手で、さすが現役で教壇に立っていると感じました。オンライン講義では、とかく一方的な講義だけで終わってしまう傾向がありますが、今回のように適切な質問をして頂けると我々聴講生も話をしやすいと感じました。
◆ 睡眠を専門に研究されている講師の「年を取ると個人差が大きい、あまり数値にとらわれないこと……」との最初の言葉に、いつも気にしていた自分の睡眠時間の不安が解消された気がしました。巷のうわさになびき易く、スマートウオッチを着けて計測し、その都度データに左右され、悪い?といわれる飲食物を避けたりしてきました。でもこれを機に、しばらく「睡眠時間」に囚われずに過ごしてみようと思いました。認知症にはなりたくないので、ならないようリスクを避け、出来る事から一つ一つ改善をしていこうと思います。昨夜は涼しかったせいもあるかも知れませんが、ぐっすり眠れました。ありがとうございました。
◆ 「日中活動できていれば、問題ない」という言葉に励まされました。悩みが晴れたと感じました。また、日中、日光を浴びる、運動する、決まった時間に寝る・起きる、当たり前のことですね。納得しました。ただし、質問タイムの「睡眠時無呼吸症」との指摘は気になりました。