高齢者ケアへの視座
人間は独りでは生きられない。誰かの手を借りながら生涯を全うするのが人間である。
生まれ、育ち、生み、育て、老い、そして死に逝くという「生」から「死」への連関の中では、必ず誰かに助けられ、誰かを助けながら、生涯を全うしていく。ケア、すなわち「助けられるケア」と「助けるケア」の両面を持ちながら、生き、生活し、死んでいくのが人間の自然な姿なのである。科学哲学者である広井良典教授は「人間は『ケア』する動物である」を視座に、ケア社会の創造的意味を問い続けている。
日本の平均寿命は女性86.61歳、男性80.21歳。「人生80年時代」から「人生90年時代」を見据えた「ケア消費社会モデル」の構築が急がれる。「人が人を支えるケア」が自然な行為だとすると、「幸せな老い」が現実になるような「心のこもったハートフル」なケア・システムをつくる責任が我々にある。「最もよい年の取り方」を研究し、「喜んで助け、助けられる」ケアの仕組みが幸せな社会をもたらす。
ケア消費が消費社会の新たな柱に育つ可能性
「ケア(care)」には、①看護、介護、②世話,③配慮、関心、気遣いなどの意味がある。とくにケアする側にとって大切なのが、ケアする相手の「いのちを守り合い」「人間の尊厳に配慮する」といった「倫理観」を持ち合わせた「ケア・マインド」である。高齢者医療の問題としてだけでなく、「老い」と「死」へのまなざしに支えられた「癒しの生活モデル」となるケア・デザインを描く必要がある。
超高齢社会から生まれる「多様なケア・サービス」への対応策が「地域消費」の中核に育つ可能性がある。コンビニエンスストアが「包括ケア・センター」を目指す動きやNPOによる「生活支援お助け隊」がもてはやされている。ケア・マインドを持つ「コミュニティ・ビジネス」を地域ぐるみで育てることも大切だ。ケアの消費社会創出は、産・学・公・民が連携して取り組むべき協働課題である。ケアがまちづくりの中核になる時代がやってきた。