稲荷山公園北斜面の植生再生
日 時:5月10日(水)13:30~16:00
講 師:稲荷山・山ゆりの会 福田朝男 氏
受講生:出席13名(欠席3名)
4年ぶりの市民大学対面講座。第1回は、山本さやま市民大学新学長の「講義を聞いて自身が元気になると同時に、それを市民の方に伝えて、狭山を元気に、豊かにしていただきたい」とのお話から始まりました。
今回の講師の福田さんは、2016年、稲荷山公園北斜面の緑地保全地区にヤマツツジ、ヤマユリ、カタクリの群生が生育していることから、ここを狭山の魅力ある地域として活性化させ、市民憩いの場にしたいと考えたそうです。担当者に訪ねても頂上の平面部分の草刈りをするだけとの返事。そこで、ボランティアグループ「稲荷山・山ゆりの会」を発足させ、隣人や知人に声を掛け、整備再生作業を始めました。まさに、学長のお話の「狭山を元気に、豊かに」している方です。
市営稲荷山公園北斜面のヤマユリ
お話は見事なヤマユリの紹介から始まりました。赤色の斑点が濃く大きく入るヤマユリの変種「口紅ヤマユリ」や、ヤマユリの奇形種で、茎が帯状に変形した「帯化ヤマユリ」などの写真が次々に映し出されます。
日本固有種のヤマユリは8種類あり、種まきから発芽までに2年、1輪咲くまでに4~5年かかるのだそうです。しかも、発芽率は0.4%。7年前の作業時に1株だったヤマユリが昨年は11株に増殖し、2haの斜面には1000株以上のヤマユリがあり、最大26センチの花が咲きました。帯化ヤマユリは茎巾16センチ、高さ2メートルにもなり、100輪が開花したとか……。成長途中の帯化ヤマユリは、まるで竜が天に昇っていく姿のようでした。
北斜面緑地保全地区の整備
ヤマユリは水はけと風通しの良い場所を好み、じめじめした場所を嫌います。また、根に共生菌が育つ松林、ツツジ等を混植するとよく育ちます。市営稲荷山公園は大正天皇統監の陸軍特別大演習が行われた記念に、大正3年に整備完成しました。園内にはツツジが植栽され、ツツジの名所として長く親しまれている公園でした。しかし、戦後は荒れ果て、見晴台周辺は放置ゴミが散乱し、地元でも「藪公園」、「ほったらかし公園」とさえ呼ばれていました。100年の歴史あるツツジは、クズ類などのつる性植物に覆われ、枯れて悲惨な状態になっていました。
そこで、ヤマユリの嫌う、葛、山芋、カラスウリ、ヤブガラシ等の野草を除去することから作業が始まりました。鍬を使って葛の根を1本ずつ抜きます。斜面での作業は大変きつく、きれいになるまでには5年もかかりました。葛根には1本ずつ薬剤を注入して枯らし、今ではほとんど出なくなったそうです。
野生のヤマユリは殆ど(99%)がウィルスを持っており、環境が悪化すると発病します。発病したヤマユリの株は接触感染をおこし、場合によっては全滅してしまう為、必ず焼却処分します。感染したヤマユリには絶対に触らないようにとのお話でした。
今では、ヤマユリ観察路も整備され、ヤマユリ祭り案内所も設置されています。案内所で頂いたわずかの寄付が1年間の活動費になります。真夏の8月と厳冬期の12月、1月は休止していますが、毎週火曜日午前中に作業を続けています。
活動の成果と課題
この稲荷山地域は、早春はカタクリ、春にはサクラ・ヤマツツジ、初夏にはヤマユリ、そして貴重な草花が四季折々に咲き誇ります。会員メンバーの協力と努力により狭山の魅力ある地域として、狭山市民のみならず近県にまで知られ、最近は都心から来る人も多く見られるようになりました。地元の保育園や幼稚園児、プラネタリウム来館者も市営稲荷山公園の見晴台を経由していくことが多くなりました。また、報道機関に取り上げて頂く事も多くなりました。
最近では、公園や緑地保全地区の整備作業にあたり、市役所担当者と事前に打合せが行われるようになりました。草花以外でもオオタカ・アオゲラ・アカゲラ等の野鳥も多く観られることから、地元議員や狭山市観光協会の協力のもと、「狭山の魅力ある町づくり」の一環として市民憩いの場とすべくこれからも活動していきたいとのことです。ただ、再生・整備作業を始めて8年目に入り、年を重ねる毎に急斜面での作業は身体に負担を感じるようになりました。先行きを考えると後何年継続可能か不安な状態にあり、活動を縮小せざるを得ないのが現状です。今後のために協力者を募っています。大変な作業はほぼ終わり、誰でもできる作業がたくさんあるそうです。
「貴重な自生ヤマユリは咲き出しが一番元気で素晴らしい。7月10日頃が見頃です。見晴らし台からの眺望も素晴らしいので、散歩がてらに是非お出で下さい」と話が結ばれました。
後半は県営、市営稲荷山公園内の詳しい紹介をしていただきました。講義の途中で大正天皇御立所の碑が3つに割れているのは、関東大震災で倒れ割れたものを継いだのだという情報も受講生から寄せられました。
受講生感想
・緑地保全地区の植生再生活動の大変さ、重要性をよく理解することができた。また、ボランティア活動による植生再生がなければ、魅力ある地域にならなかった現実を聞いて、市の自主的活動のあり方に疑問感じた。
・やまゆりが病原菌にすごく弱く、それを丁寧に管理されていることに頭が下がります。多くの人が整備に参加されるといいなと思いました。
・いつも散歩させて頂いている所がこんなに大変な努力によってきれいなヤマユリが咲くまでにされたことを知り、感謝いたします。稲荷山公園が県営と市営に分かれている事を初めて知りました。
・県営の公園にしか行ったことがなかったので、季節ごとに一度足を運びたいと思いました。お手入れ前とその後のお写真を見て、かけた時間と手間、労力がなければ埋もれたままだったお花の姿に感動しました。ウィルスの存在も初めて知ったので勉強になりました。安易に触れないように気を付けます。