生活習慣病に対する運動の効果
日 時:8月20日(土)10:40~12:10
講 師:駿河台大学特任教授 坂本静男先生
受講生:出席8名(欠席0名)
短い夏休み後のまだ8月、講座の後半が始まりました。最初の講義は、昔は運動不足病と言われた生活習慣病に対する運動効果の話です。先生は、「今回は運動を中心に話をするが、運動、栄養、休養の3つのバランスが大事だということを頭に入れて今日の話を聞いてほしい」と講義を始められました。
メタボリックシンドロームと肥満症対策
メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪型肥満症に脂質異常症・糖尿病・高血圧症が組み合わさった状態を言います。国や、年代によって診断基準は違ってきますが、なぜメタボリックシンドロームが強調されるのかというと、動脈硬化を年齢以上に進行させ、脳梗塞、脳出血、心筋梗塞、狭心症、末梢血管のつまり等を起こしてくるからです。つまり、肥満を解消しておくことで、これらの進行を抑えられる可能性が高くなります。肥満症の対策としては、食事摂取量の減少、運動実施量の増加、適切な睡眠やリクリエーションを取ることがあげられますが、ここでは、運動について解説されます。
研究報告によると、運動の強さよりも、運動の量の方が体重変化に与える効果が高いことが分かります。グラフでは、週に200分ほどの運動で内臓脂肪の減少に効果があり、リバウンド率も少なくなっていました。興味深かったのは、短距離走では炭水化物がエネルギー源として使われ、脂肪はエネルギー源としてほとんど使われていないのに比して、歩行は炭水化物と脂肪が半々に使われることです。うまり、ウォーキングの方が効率よく脂肪減少に作用するということです。
高血圧と運動効果
高血圧は、塩分、肥満、アルコール、ストレス、運動不足等の環境因子と遺伝因子が相まって発症します。日本国内には4500万人の高血圧患者がいるとされ、その中のかなりの人が内臓脂肪型肥満症だと言われています。研究報告では、減量することにより多くの人の血圧が下がっていました。
面白いラットの実験があります。必ず高血圧になるように作られたラットを、ケージに入れっぱなしの非運動群と、ケージから出て遊具で自由に動ける自由運動群とに分けたところ、自由に運動できるラットの方が低い血圧を示したそうです。ある程度血圧が上昇した後で行った実験でも、同じ結果になっていました。興味深いのは、電気刺激で強制的に運動させられたラットの血圧が異常に上がっていたことです。このラット達は途中から自由運動に変えられ、それ以後は血圧が上がっていませんでした。先生は、「この実験から、人間でも十分説明して納得してもらった上で運動を実践してもらわないと逆効果になってしまう」とおっしゃいました。
糖尿病と運動効果
糖尿病とは、全身の細胞でのインスリン作用不足により代謝異常を来たす病気です。失明する人の多くが糖尿病性網膜症といわれています。昔は検査数値が高いと即、薬を処方されたこともありましたが、今では薬物療法の前に生活習慣の改善が指導されます。初期はほとんど症状が無いので予防をしていくのも先取的な治療法となります。
糖尿病に対しても運動は効果があります。運動トレーニング後のインスリンの効きが良くなることは多くの研究で報告されています。ある研究では、12カ月で約3倍にもなっていました。また、運動トレーニングで減量した場合には糖質代謝が良くなります。極端な食事制限で減量するとかえって糖質代謝を悪くします。数年前から糖質・炭水化物制限ダイエットが流行っていますが、これは大間違いです。必要な食事量は摂り、糖質・炭水化物もカロリー換算で50%前後は必要だというふうに報告されています。また、運動の強度は高強度だとかえって血糖値を高める要因が働いてしまい、中等度強度の運動が好ましいとの研究結果が示されました。中等度強度の運動は特に高い朝の血圧を下げる効果もあるそうです。強すぎる運動より、中等度の運動。何事も中庸が大事だとのことでした。
講義最後の画面には「御静聴ありがとうございました」の文字が……。「自分の静かな男から、静かに聞いていただいたということでわざわざこれを使っています」とのお話で講義が終わりました。
質疑応答
「中庸とはどのくらいの運動レベルか。また、時間帯はいつが良いか」
→ それまでの運動経験にもよるが、ウォーキングレベル。運動経験のある人なら時速6~6.5㎞、無い人なら時速4㎞ぐらいから始めると良い。1回30~60分続ける。時間帯については決まった研究報告は現在無い。
「中等度運動とは具体的には」
→ 遊び程度のバトミントン、ウォーキング、平地での自転車運動。厚生労働省等の運動強度の単位(メッツ)の表を見ると良い。
受講生感想
◆ 運動、栄養、休養をバランス良く摂ることの重要性が認識できた。現在高血圧、糖尿病予備軍で薬を服用し、医者の診断では問題になっていないが、根本的に改善するのには中等度強度の運動継続が良いことがデータで示されていることから、今後も運動を継続する意識付けとなった。
◆ 以前は糖尿病者の食事制限を守るには本人より家族の負担が多大でした。坂本先生の講義より食事制限はないが控えめに食べる取組になった事にほっとしています。
◆ 年齢を重ねると生活習慣病は常に脳裏から離れなく気になっていました。血液検査結果は正常値の上限で、生活習慣病に一歩足を踏み入れる状況下にあります。そういう現状にありますので、先生の講義は興味深く拝聴いたしました。自身の生活の乱れから、病気を引き込むことは本意ではないので、運動・栄養・休養を心掛けてはいるものの、目標の半分ぐらいの到達度です。今回は運動・栄養・休養の重要性とインスリンが血圧に関与していること、そしてストレスが身体の調整を乱し、体調の悪化、高血圧を招く引き金になること、運動が各種ホルモンに作用し降圧効果を促すことを学び、コロナ禍を理由に運動不足になっている状態を反省する次第です。運動も中等度強度、早足のウォーキング、身体に刺激があるくらいの家事や家庭菜園も効果的と認識し、継続により代謝が促進されることが理解できました。