人類の宿命、腰痛・肩こりを救う インナーマッスルの使い方
日 時:7月30日(土)10:40~12:10
講 師:早稲田大学スポーツ科学学術院教授 金岡恒治先生
受講生:出席8名(欠席0名)
シドニー、アテネ、北京五輪の水泳チームドクター、ロンドン五輪JOC本部ドクターを歴任され、腰痛、肩こりの本もたくさん出版されている金岡先生。脊椎がご専門の金岡先生は、今、脊柱管狭窄症、腰痛、肩こりの運動療法を研究されているそうです。今日は腰痛や肩こりを減らすためにどういう筋肉をどう使えば良いのかを教えていただきます。
腰痛・肩こりの原因は……
まずは姿勢の話から……。50才台でほんのわずかに背中が曲がっている人が、徐々に腰、膝と曲がり、80才台では杖をついた3本脚歩行に、その後は四足歩行(=寝たきり)になるという説明に思わず背中がまっすぐになりました。そうならないためには、①顎を引く、②肩甲骨を寄せる、③お腹を引き込む(丹田を意識する)ようにすることが必要だそうです。大事なのが「頚長筋」「菱形筋」「腹横筋」。この3つのインナーマッスルをうまく使うことで良い姿勢がキープできるとのことです。今からでも遅くないので意識して日々過ごしていただければ……と、お話が始まりました。
ポイントはインナーマッスルを正しく使うことです。インナーマッスルは骨に近いところにあり、動きは小さいですが関節を安定させます。アウターマッスルはその外側にあり、大きな力を出しますが使い過ぎると筋肉疲労によりコリや痛みの原因になります。インナーマッスルで関節を安定させたうえで、アウターマッスルを使って体を動かすのが正しい動き方です。アウターマッスルを主にして体を動かしてしまうと、関節不安定から関節の痛みや変形に、アウターマッスルへの負担から肩こり、腰痛になります。実際に腕を動かしてみたり、図や動画を見たりしながら、「頚長筋」「菱形筋」「腹横筋」の詳しい説明があり、五十肩や肩こり、腰痛の原因が良く理解できました。
鎮痛剤の前にエクササイズを
整形外科等に行くと、鎮痛剤を処方されることが多くありますが、先生は「安易な除痛薬の前に体幹エクササイズを」と勧めます。以下は、今日の3つのインナーマッスルをうまく使うためのエクササイズです。筋肉の使い方を学習すればうまく使えるようになるそうです。
【菱形筋エクササイズ】
掌が内側になるようにして手を上に挙げ、両手を脇に下げながら掌を外に向けていき、肩甲骨を寄せます。肩甲骨が後ろにいけば、肩が動きやすくなり、重心が後ろに行くので背筋に負担がかかるのが防げます。毎日インナーマッスルをうまく使えるように、朝起きて最初にやると良いそうです。
【頚長筋エクササイズ】
仰向けに寝転んで、まず顎を引く。頭のてっぺんから順番に、肩甲骨が持ち上がるくらいまで骨を持ち上げていきます。
【腹横筋エクササイズ】
骨盤を立てて座り(立っても良い)、おへその下(丹田)を後ろに引き込みます。何か動作をする時には、おへその下を引き込んでから(あるいはお尻を締める、排尿を我慢する感じでも良い)動き出すことを意識すると良いそうです。
これらのエクササイズは普段から少し意識してやってみると良いとのことでした。頚長筋で顎を引き、菱形筋で肩甲骨を寄せ、腹横筋を入れた状態で骨盤を前傾にして椅子に座ったり、床のものを拾ったりするよう心がけます。「トイレで座るたびにこれらを意識してみてください。できれば途中で一回止めて出来ているかチェックしてみると良いです」「歩く時にも、顎を引いて、肩甲骨を寄せて、お腹を引き込んでを意識して、元気に歩きましょう」と話が続きます。
最後に、「日本の医療の良いところは、誰でも診てもらいたいところに行けることですが、理学療法士(リハビリ・運動療法)へはアクセスしづらくなっています。従って運動療法が普及せず、医者も重視していないのが今の医療の現状です。そこで、私は現在、運動療法を普及するためのさまざまな活動をしています」という話で今日の講義が終わりました。
質疑応答
「血圧が高い人は横を向いて立ち上がるようにと聞いたが」
→ エクササイズとして肩甲骨が持ち上がるまでやれば良い。起き上がる時は横向きで。
「首の骨等、音がするのは何故か」
→ 軟骨が減ってきているということ。負担を減らすにはインナーマッスルをうまく使って動かすと良い。
「顎を引き、胸を張り、大股で歩いているが、他に歩き方の注意は」
→ 歩き初めに丹田を意識すれば良い。大股で歩くのは自然におへその下に力が入っているのでもうできているのではないか。
「寝る姿勢の注意点はあるか」
→ 姿勢よりもマットレスが柔らかすぎて腰が沈み込み腰に痛みが出る場合がある。
受講生感想
◆ 最近、友達から猫背で、年老いて見えると言われたところでした。それを気にかけて、高齢の方々を観察していたら、背筋がピーンとしている人は若々しいことに気づかされました。そして今回の講座で、加齢や日常生活の過ごし方が、知らず知らずのうちに肩こり、腰痛などの引き金になっていたこと、インナーマッスル・アウターマッスルの働きを学び、それらを意識しながら、日々過ごすことで痛みの解消、若々しさの保持に繋がると理解することが出来ました。今までは、肩こり・腰痛・膝痛ともに骨の異常によるものでは?と考えていましたので、前回の骨格筋の勉強、そして今回のインナーマッスルの働きの重要性を学べ、健康寿命を延ばす手がかりになり、大変勉強になりました。
◆ この数週間の講座は、自分の体の内部をチェックされている様な授業でした。全く気付いていない事、覚えのある症状があったことなど、徐々に我が身が解体されていく様な感じでした。でもそのチェックによって、体の仕組みや現在の自分の状態を知ることが出来ました。ヨガで学んだ様々なポーズが出来なかった理由が、今回学んだインナーマッスルが全く使われていなかったことが原因だと少しずつ分かってきました。チェックするごとに不安が先立っていましたが、今は、‟続けるしかない”と確信しています。
◆ 初めて理論的に頚長筋、菱形筋、複横筋とインナーマッスル、アウターマッスルについて説明を受け、肩こり、首の痛み、腰痛予防のエクササイズのやり方を学びました。体の一部が痛い時、病院で「加齢です」と一蹴されるケースが多いですが、その原因が理解できるように感じました。大変参考になります。