加齢による骨、軟骨変性疾患
日 時:7月16日(土)10:40~12:10
講 師:早稲田大学教授 鳥居俊先生
受講生:出席8名(欠席0名)
早稲田大学で教鞭を執るかたわら、日本のトップチームのスポーツドクターとしても活躍されている鳥居先生。いきがい講座の受講生として骨密度測定を実施して頂いたことを思い出す方も多いのではないでしょうか。要支援の方の原因第1位が関節疾患、第3位が骨折・転倒、要介護でも第3位が骨折・転倒となっています。つまり、骨の問題は健康寿命と大いに関係しているのです。「長持ちさせるにはどうしたら良いのか……」講義が始まります。
軟骨の変性・摩耗による変形性関節症
軟骨とは関節で向かい合う骨の表面を覆う組織で、水分に富み、水を含んだスポンジのように適度に変形し、衝撃を緩衝する役割をしています。年齢とともに摩耗・変性し、70歳代前半では女性の60%、男性の30%程度に膝の関節の狭まりが認められます。この変形性関節症はすべての関節に起こりますが、特に膝に痛みを感じる症例が多く見られます。原因は遺伝や体重によるところもありますが、加齢によるところが多いので避けられないことです。
この変形性膝関節症の原因遺伝子を初めて発見したのは日本人研究者だそうです。20数年前、「あ、日本人が見つけたんだ」と新聞記事を読んだところ、なんと先生の同級生でびっくりしたとのお話でした。ただ、変形性膝関節症にかかわる遺伝子は一つではないということも分かってきているそうです。
変形性膝関節症の治療は、まず始めに外用薬、内服薬、関節内注射等の薬物療法がおこなわれます。進行すれば関節の形を変えたり、人工関節に置換したりする手術が必要ですが、運動療法で進行予防する方法もあり、初期には効果的です。関節周りの筋肉、特に太ももの筋肉を鍛え、関節の負担を軽減します。運動療法では、歩く速度が速くなり、歩幅が広くなり、膝の痛みが軽減した他、心肺機能にも効果が及んだそうです。減ってしまった軟骨は元に戻せませんが、適度に動いて周りの筋肉を維持することが大事です。
骨の脆弱化による骨粗鬆症
骨粗鬆症とは骨の強度が低下し、骨折が容易におこる状態のことです。骨密度は15~20歳をピークに徐々に減ります。女性は閉経後の50歳前後から急激に減るため、骨粗鬆症は女性に多くみられるそうです。40歳までの骨密度の平均の70%以下になったら骨粗鬆症と言われます。4大骨折部位は手首、腕の付け根、背骨、大腿骨頸部。中でも大腿骨頸部は体の中の一番大きな骨で、骨折時の出欠量も多く80、90代では命にかかわります。
治療は骨の減少を食い止めるための薬物療法、骨の強度を維持し転倒を予防するための運動療法があります。先生によると、骨は常に壊され、作られていて、約5年で全部入れ替わるそうです。このバランスで骨密度の増減が決まります。学生が4年生になるとほぼ入れ替わることになりますが、「留年すると完全に入れ替わる」との言葉にはつい吹き出してしまいました。
骨と言えばカルシウムですが、日本人はカルシウムが不足しているのはご存じの通りです。カルシウム吸収に必要なビタミンÐは日光を浴びることで生成されますが、コロナ禍で子供たちが外遊びをしないことは深刻な事態だと先生はおっしゃいます。成長期にしっかり運動し、骨を蓄えることが骨粗鬆症の一番の予防だということです。小中学生のお孫さんには運動を勧め、一生困らない体を手に入れられるよう助言を……と今日の講義が結ばれました。
質疑応答
「膝の片方が痛むのは何が原因なのか」
→ どちらかがより進行しているだけで、反対側もすり減っている。関節炎等にかかったことがある場合は、そちらの方が先に痛み出すことが多い。
「軟骨は徐々にへっていくと思ってよいのか」
→ 身長増加が終わる頃が最大で、その後は減る一方。
「三輪車をこいでいるが、膝への負担はあるか」
→ 回転していろいろな所に負荷がかかるのでペダル漕ぎの負荷は徒歩より軽い。
「サプリメントの効果はあるか」
→ 筋肉をしっかりつけるにはタンパク質が必要。サプリメントは軟骨を増やす効果はほとんどないと思われる。本当にあれば薬として販売される。
「骨密度は体積当たりの骨の量と考えて良いのか」
→ 面積当たりの量(g/㎝2)。重い、詰まっている骨が良い。
「かかと落としが良いと聞いたが?」
→ 誰でも簡単にできる運動で良いと思う。しっかり負荷をかけることで骨形成が高まる。
受講生感想
◆ テーマを読んだだけでは、どのような講義なのか不安でした。講義が始まり、今まさに自分が悩んでいる内容でしたので講義内容をノートに書いていきました。質問タイムで.三輪車のペダルを踏む時の膝の負担が気になりましたのでお聞きしました。影響ないとの鳥居先生の回答にほっとしました。4月から月1回1錠ボンビバ錠100mgを飲んでいます。5年間続けて飲むのですがその理由がはっきりしませんでした。骨が新しくなる期間が5年と聞いて理由が分かったので薬を続けます。
◆ 軟骨とは水分に富む材質で、水分が出入りすることで柔軟性の機能を維持していることが分かり、その名前の由来が納得出来ました。軟骨は原則的に加齢と共に減少することを再認識しました。また、一般的に宣伝されているサプリメントも実際には大きな効果がないことが分かりました。たいへん分かり易い講義で良く理解出来ました。例年のように、骨密度の実測が出来たらもっと良かったのですが、残念です。
◆ 負荷をかけない方がいい軟骨とかけた方がいい骨、どちらを取るか? 若い時の生活がその後の人生に影響する。女性は次世代のために頑張っているということを、早い時期に教える必要がありますね。ついつい、手を抜いてしまいますが、日ごろから適度の運動と食生活を心掛けるようにとの示唆でしょうか。