熱中症にならないための身体づくり
日 時:6月25日(土)10:40~12:10
講 師:早稲田大学スポーツ科学学術院准教授 細川由梨先生
受講生:出席8名(欠席0名)
昨日から梅雨が明けたかのような強い日差しで、外に出るときのむっとする暑さは夏そのもの。そんな中、まさに今聞くべき講義「熱中症にならないための身体づくり」が始まりました。
細川先生の専門分野はアスレチックトレーニング(トレーナー)。聞きなれない言葉ですが、アスリート、軍隊、大きな工場等で、人々がより健康に、安全に、かつ最大限のパフォーマンスを発揮できることを目的にアメリカでスタートした分野だそうです。中でも先生の専門は暑さ環境への安全対策とパフォーマンス向上だそうで、東京オリンピック、パラリンピック期間中に札幌で開催されたマラソン等にも熱中症対策専門委員として帯同されたそうです。
熱中症発生のメカニズム
熱中症は「熱収支」のバランスが崩れることで起こります。熱は基礎代謝や筋活動で作られますが、絶えず放散されてもいます。熱がうまく放散されないと熱中症になってしまいます。汗をかいたら体温が下がると思いがちですが、汗をかくだけでは脱水を促してしまうのでむしろ体温が上がってしまうとか……。蒸発させ、気化熱として放散させなければならないと聞き、思わず納得してしまいました。
熱中症を大きく分けると、暑い環境での運動により持続的な高体温や脱水が続くことで起こる「労作性」のものと、長い間暑い環境にさらされて体温調節機能を超えてしまったときに起こる「非労作性」のものがあります。テレビで報道されている熱中症はほとんどが非労作性のもので、乳幼児や高齢者のうまく体温調節機能が働かない人たちに多くみられます。特に熱帯夜の熱さストレスの影響は大きく、夜間のエアコンは重要です。
発生時の応急処置
続いて、それぞれの症状への対応について教えていただきました。
① 熱失神(顔面蒼白、めまい、立ち眩み)は血圧低下で起こるので、足を心臓より高い位置にし、血圧低下・脱水症状を補正するため水分補給をする。
② 運動誘発性筋けいれん(熱けいれん)は急性筋肉痛の状態で塩分不足や脱水が原因なので、ストレッチなど他の刺激を与えて筋けいれんをおさえ、塩分補給を行う。
③ 熱疲労(倦怠感、口の渇き、めまい、頭痛等)は熱中症のほとんどがこれに当たるが、医学書でも症状しか定義されていない。体を冷やし、発汗で失った水分や塩分を補給する。
④ 熱射病は意識を失ったり、ヒステリー状態に陥ったりすることもあり、最も重症度が高い。救急車の手配と同時にいかに早く体温を下げるかが救命の分かれ道。濡れタオルで全身を冷やす、冷たい水をかける、水風呂につけてしまうなどの処置が必要。
起こった原因を考えて対応策を取るということの重要性を感じました。
熱中症にならないための対策
熱中症は何か一つの原因で発症する訳ではなく、複数の要因が重なることでリスクが上昇します。これさえすれば熱中症にならないという対策はなく、「睡眠環境を整える」「バランスの良い食事と水分補給を心がける」「適度な運動をし、体力増進と暑熱順化を促す」等を心がけることが大切です。しっかりした体調管理さえできていれば、体のメカニズムが守ってくれるとのことでした。普通の食事をしていれば、特に塩飴や電解質補給ドリンク等を飲む必要はないそうです。また、水の飲みすぎも良くないそうで、良い水分状態はおしっこの色を見ると分かるという話もありました。起床時の尿の色を見て、朝ごはんにどれほどの水分を補給したら良いかを考えると良いとのことです。明日からトイレをしっかり覗く人が増えそうです。
質疑応答
「最近の子供たちはよく水を飲む。飲みすぎなのではないかと思う時もあるが」
→確かに飲みすぎは問題。アメリカでは水中毒になった例もある。
「水分補給の量はどれくらいにしたら良いのか」
→個人差が多いので人によって違う。1度に200~250mlをこまめに摂取すると良い。尿の色を参考にすると良い。
受講生感想
◆ 暑い夏に向けてタイミング良い講座内容で生理学的、論理的な内容で良かったです。3年前の地区の夏祭り時(7月末土曜日午後)自治会長が熱中症で会場で倒れました。運よく看護師を会場に配置していたため、救急車の手配等ができ大事に至りませんでした。症状をみて判断できる対応力の必要を痛感しました。小学生向けのビデオは、解りやすくよくできています。学校の保健師さんとの共同で実際の授業で活用できると良いと思います。
◆ 暑い日にぴったりのテーマでした。水分補給は大事と思い、必ず専用の水稲を持参して出かけています。小水の色で、体内の水分状態を推定する方法、よくわかりました。最後に紹介された動画、確かに子供たちに見せたらいいと思います。優しい口調で、子供たちに良く伝わるでしょう。女性は汗をかくことを避けるきらいがありますが、健康上大事であることをこれからも啓蒙してください。
◆ 熱中症は1つの要因で発症するわけではなく、複数の要因が重なることよってリスクが上昇する事を知りました。家庭でできることは「①睡眠環境を整えること ②バランスの良い食事と水分補給を心がける ③適度な運動」です。このことを忘れずに熱中症に気を付けます。お子さん用の熱中症ビデオを家で見ました。おしっこの色についてはとても参考になりました。ビデオ内容がすべて役に立ちます。狭山市が推奨している「高齢者へのいきいき百歳体操サポーター」として活動しています。是非、高齢者に見せたいです。
◆ たいへん分かり易い言葉で説明して頂き、とても聞き易かったです。アスレチックトレーナーという職種があることを知りました。現場に居て判断するというやり方は良いですね。