アドバンスケアプランニング(人生会議)について考える
日 時:6月18日(土)10:40~12:10
講 師:聖路加国際大学教授 鶴若麻理先生
受講生:出席7名(欠席1名)
早稲田大学人間総合研究センターから聖路加国際大学に移って14年の鶴若先生は、医療における事前指示や高齢期の生きがいに関する研究などをなさっています。2019年からは読売新聞のコラム「ヨミドクターコラム」を連載。看護師の葛藤やジレンマについて事例を紹介しています。「看護師のノートから~倫理の扉を開く」で検索するとヒットしますので是非ご覧ください。今日は、「人生会議なんていったいなんなんだろう。そんな気持ちで聞いてもらえたら良いと思います」と講義が始まりました。
終活からアドバンスケアプランニング(人生会議)へ
終活ブームの始まりは2009年頃で、お葬式やお墓についての話題がメインでした。その後、延命治療や老後の生活資金、財産分与などを考える終活に視点が移ってきます。高齢になってからの長い時間を自分らしく生き、良い終わり方をするためのエンディングノートがあちこちで見られるようになりました。また、アメリカのカレン・クィンランさんの裁判から、日本でも日本尊厳死協会が設立され、リビングウィル(医療における事前指示)の必要性が論じられ始めました。
一方、アドバンスケアプランニングは将来の意思決定能力の低下に備え、療養などに関する本人の意向を本人主体で関係者と継続的に話し合うプロセスをさします。エンディングノートやリビングウィルの自分の意思を書面に残すという発想とは違い、元気なうちに医療の最終段階に自分はどんな治療を受けたいかを家族や医療者とともに話し合います。心身の状態によりその意思は変化することが考えられるため、繰り返し話し合うことが必要になります。
アドバンスケアプランニング(人生会議)とは
『人生会議』――ちょっと聞きなれない言葉ですね。厚生労働省が推進し、人生の最終段階の医療ケアについて話し合ってみませんかと呼び掛けています。人間誰しも、いつ何時どんな状態に陥るか分かりません。元気なうちに周りの人と話し合っておきましょう――ということです。そんなの誰かに会議してもらいたくないよ、上から目線を感じるね……なんて声が聞こえてきそうですね。先生によると、高齢者医療費の削減(過度の延命治療の抑制)も視野に入れているのではないかとのことでした。なんだか、頷けます。
厚労省の調査では、自分が意思決定できなくなったときに備えてどのような医療を受けたいかなどを記した書面(事前指示書)の作成に賛成の人は、7割もいますが、実際に作成している人は8%。医療関係者ではさらに低くなります。延命医療を望まない人は8割もいますが、家族と話したことのある人は3割ほどです。この手のことはタイミングが大事だと思われますが、自分が話す気になっていても家族がその時に聞く気になっているかというと、なかなかそうはいきません。また、専門家が関わることも必要ですが、日本での患者と医師との関係性を考えるとまだまだそこまで行っていないようです。
また、高齢者は家族が最後の選択を迫られることを回避するため、またそのことによる家族の精神的負担を軽減するためにリビングウィルを残しておきたいと考えます。一方、家族の立場からすると最後までできるだけ手を尽くしたいと考えるのも自然だと思えます。
人生の最終段階をどうすごすのか
2020年の日本人の平均寿命は男性81.64歳、女性88.74歳だそうです。今後も伸びることが予想されます。高齢者大学受講生へのアンケートからは、自分の終末期について想像することが難しいことや、相談にのってくれそうな医療者が少ないこと、文書化することへの抵抗感等が見られました。元気な時に人生の最後を考えるのは難しいことです。それでも機会を作り、人生会議をしてみたいものです。自分らしい終わり方ができるよう、自分らしい「生き方」を考えるきっかけになる講義だったと思えました。先生は、「いきがい講座も大きく捉えるとその一つと言えます。つまりどう生きるかを考える講座だからです」とおっしゃっていました。
質疑応答
「エンディングノートに「延命治療はしないでくれ」と書いた。法的に有効か」
→日本では法案提出はあったが法制化されていない。家族が書いていることを知っているのであれば、せめて医療者に伝わると良いと思う。
「医師は相談にのってくれるのか」
→主治医に話を聞く雰囲気があるのなら、「アドバイスがありますか」等と話してみる価値はあると思う。
受講生感想
◆ 鶴若先生が学校で、学生達に倫理観を指導していること、期待しています。終末を考えたときに、子供たちに迷惑をかけないように、「そろそろ考えないと……」と思っていますが、エンディングノートを開くこともできていません。子どもとの意見交換など真剣な顔ではできていません。アドバンスケアプランニングに従ったとして、お医者の処置にクレームが出たときには、法的に有効でないと問題がありそうと感じました。最後は信頼関係の構築でしょうか。
◆ 沢山のデーターを見、聞きながら「自分は今何が出来るのか?」考えてみました。とりあえず片づけを本気になって実行します。
◆ アドバンスケアプランニングは初めて聞く用語です。健康で問題なく日常生活を送っているので身近なものとして考えていませんでしたが、一人暮らしの現状から信頼がおける人に話す、記したものを預けるということも考えていく必要性を感じました。この講座で社会(厚労省)の方向性が分かり、自分の置かれている立場を認識し、先の事と思っていたのがそうでもないと気づかされています。リビングウィルの流れからの解釈としては、終末期に関わる医療スタッフにACPを理解して頂きたいです。私の看取りの体験から、医療サイドにはそれに対してのマニュアルが決まっていて、本人、家族に十分な説明がなされませんでした。話し合いの場が少なかったです。家族がどんな思いでいるのかを解ってほしかったです。