江戸時代の和算を理解しよう
日時:令和6年1月29日(月)
講師:権田恒夫氏
「『和算』という言葉は『洋算』に対比して明治以降に使用され、江戸時代は『算法』と言われていました。ですから、今日のテーマは、正しくは『江戸時代の算法を理解しよう』です」と、講義が始まりました。
江戸時代の和算
室町時代に算盤 (そろばん)が明(現・中国)から我が国に伝わり、寛永4年(1627)、吉田光由が『塵劫記』で「掛け算や割り算、米などの売買、金の両替と利子、面積や体積などの日常生活に必要な計算から高度な問題までを挿絵入り」で解り易く説明しました。文章は縦書き、数字も漢数字で、今とは違う記号(未知数x・y・zを甲・乙・丙で表す)を用いて計算しました。そして江戸前期、和算家・関孝和は代数学や円理(円周率の計算など)を研究し大成します。イングランド(現・英国)の数学者・ニュートンが微分や積分を研究した以前のことです。金貨は1両=4分=16朱で換算する関係からか、江戸時代の算盤は五珠が2つと一珠が5つの十六進法でした(普段は十進数で使用)。二次方程式や三平方の定理に匹敵する数学を修めた和算家には寺院や神社に算額を掲げ、研究成果の報告と感謝の気持ちを表す者も現れました。明治以降、洋算が学校教育に採用されると和算は顧みられなくなりましたが、日本の近代化の基礎になったことは否定できません。
江戸時代の度量衡
度量衡は、長さ・距離・面積・体積・重量の基準を定めた制度です。長さは丈や尺、寸、分、厘、里・町・間が、面積は町・反(段)・畝・歩・坪が、体積は石・斗・升・合・勺・才が、重量は斤・貫・匁・分が使われました。ところで、室町時代まで年貢は貫高制(土地の面積に課した=金納)でしたが、安土桃山時代から石高制(土地の生産性に課した=米納)になりました。そして石高は、検地によって定められました。
江戸時代初期の『高麗郡柏原村検地帳』
上畠壱町壱反九拾四 出 雲
同 弐反小拾歩 あわち
同 参反大六十八歩 新右衛門尉
同 弐反大九拾弐歩 雅楽助
同 壱反大四十弐歩 内せん
合弐町仁反小六歩
右之部廿九石五升
合廿四石五升八合六勺六才
中畠壱町壱反小七歩 出 雲
同 九反大八拾七歩 新右衛門
同 五反大四拾四歩 雅楽助
同 四反九拾七歩 こやの分
同 三反大五十三部 内膳分
同 三反小部 常泉坊
合参町八反半丗七部
下畠八反小八十七部 出 雲
同弐反小四十部 新右衛門尉
同壱町三反丗四部 あわち
同壱反小七十五部 川なし 太左衛門
江戸時代の貨幣
江戸時代、貨幣は金・銀・銅の三種が併用されていました。農民は自給自足していたイメージが強いのですが、農村にも貨幣経済が浸透し、農民は金のない生活は考えられませんでした。金貨には大判と小判があり、小判1
枚は1両で、1両=4分=16朱の拾六進法でした。銀貨は、重さを量って用いた秤量貨幣です。その単位は貫・匁で、1貫は1000匁でした。
最終試験(お浚い)
最後に講師から試験用紙が渡されました。左の崩し字で書かれた「往来手形之事」(往来手形)を翻刻(崩し字を楷書で筆写する)します。
凡例は次のとおりです。
・差出人、受取人の名前の位置は、忠実に再現する
(闕字〈けつじ〉は一字あける)。
・漢字と平仮名、カタカナで筆写する。
・漢字は常用漢字を遣う。
・異体字は新字体に改める。
・変体仮名は現在の平仮名に直す。
・漢字や仮名を繰り返すときは、踊り字(々・ ゝ・ ヽ・く)を使う。
・代わりの字を当てる「当て字」は、そのままとする。
※ 解答は最後にあります。
おわりに
今回は近世文書に触れ、その見方や読み方、調べ方を学びました。未来を探るには過去から学ぶことが大事です。これを機会に歴史資料に挑戦し続け、古文書好きになっていただけたら、こんなにうれしいことはありません。
権田 恒夫
受講生の感想
・前回は風邪でお休みしましたが、3回の講座、楽しく受けさせて頂きました。今後、博物館、美術館巡り等、より深く楽しめそうです。
回答:博物館や美術館では本物の資料をじっくり観賞し、本物の良さを発見してください。もし旅行中、文学碑(歌碑・句碑・詩碑など)を見つけたなら、旅の楽しみが倍増すると思います。その場で読み取れなかったら写真撮影して帰ります。そして、家でじっくり読み進めると、旅の記憶が鮮明に残ります。
・充実した講座を受講できました。有り難うございました。往来証文の書き手(保証人)はどういう資格の人がなるのでしょうか。関所ではどの程度証文の真偽等を確かめる(裏を取る)のでしょうか。
回答:往来手形は菩提寺の住職が保証人になり、関所手形は名主が保証人になります。それぞれを発行しくれます。江戸時代の関所は「入り鉄砲と出女」(江戸から出る女性と江戸に入る武器)を厳しく検問しました。東海道では、箱根関所〈神奈川県足柄下郡箱根町〉は出女を厳しく取り締まり、武器は新居関所〈静岡県湖西市〉が厳格でした。往来手形と関所手形は旅の必需品(身元証明書と旅行許可証を兼ねる)なので、うっかり忘れたら、再発行してもらうしかありません。絶対落としたり、置き忘れたりしたら大変です。
・4回の講座、密度高い内容でしたが、算法のことをもう少し知りたかったです。
回答:吉田光由著・大谷真一校注『塵劫記』(岩波文庫)が手頃な価格で、購入できます。狭山市立中央図書館に谷津綱一著『親子で楽しむ 和算の図鑑』が蔵書されています。
【 最終試験(お浚い)の解答 】