生活活動による動脈硬化症の予防
日 時:9月3日(土)10:40~12:10
講 師:早稲田大学教授 宮下政司先生
受講生:出席7名(欠席1名)
生活習慣病や動脈硬化症の予防を専門にされている宮下先生。国内外の共同研究者と連携し、教育・環境のための学術交流も推進、第1回日本体力医学会国際学術交流奨励賞も受賞されています。宮下先生には、「健やかいきがい講座」の早稲田大学側の世話人として、講師の先生方の日程調整等いろいろな面でもお世話になっています。受講生の振り返りシートにも目を通され、今までの講師の先生方から「学生以上に質問し、皆さんの勉学意欲が伺えます」とお聞きとのことでした。今日は、普段行っている生活活動で動脈硬化が予防できるかという動脈硬化予防のお話です。
動脈硬化は小児期から……
動脈硬化は既に小児期から生じているという衝撃的な話から講義が始まりました。10歳児の血管の90~100%にうっすらプラークが見えているとのことです。すぐに血管をふさぐということではありませんが、生活習慣や加齢とともに目に見えるプラークを形成し、石灰化、血管を詰まらせます。この事実を周知することが大事ですとも……。
身体不活動は死の要因
日本人の主な死因は生活習慣病の割合が高いのですが、これは生活習慣を見直すことで改善、予防できます。WHOの報告では、死亡に対する危険因子として「身体不活動」が4位に挙げられています。70年ほど前に、ロンドンバスの運転手と車掌、電話交換手と郵便配達員の冠状動脈疾患による死亡リスクを比べた研究があり、この頃既に前者(身体不活動の多い職種)のリスクが高いことが分かっていました。座る時間が長すぎると下肢の血流が悪くなり、血圧や血糖値が高くなることにつながります。身体を動かさないこと自体が死亡に直結する要因になっているのです。
先生は身体活動と座位行動の間の生活活動が重要視されていないことも問題だと続けます。運動しろと言われてもそもそも運動が好きでない人は運動を始めにくいし、継続することも出来ません。座っている時間をなるたけ短くし、普通の家事程度の活動時間を多くすることからなら、誰にでも始められそうです。
ここで、立っている時間を長くすると血液にどのような影響を与えるかという実験が紹介されました。結果は、座っている状態とほぼ同じで、立っているだけでは食後中性脂肪値は低下していませんでした。成人の1日の覚醒時間のうち座っている時間は約60%、家事などの低強度の運動時間は約40%、中高強度の運動時間はわずか5%程度です。座りっぱなしの時間を減らし、低強度の時間をいかに増やしていくかが大事になってきます。中性脂肪を減らすには、ストレッチをする、少し歩く等の筋肉の刺激が必要なのです。エネルギーの消費量を見ると、基礎代謝量が60~75%、活動代謝量が15~30%を占めています。活動代謝量は個人の行動によって変わってくるので、通勤しながら、家事をしながら動くことでも代謝量が増えます。活動代謝量を運動やこれらの生活活動から増やし、総エネルギー消費量を増加させることが大事です。
また、日本人のインスリンの分泌量は欧米人に比べて少ないのですが、更に加齢や糖尿病、肥満によってインスリンの効きが悪くなります。ところが、体を動かすことによってタンパク酵素が活性化し、血糖値を下げる効果のあることが最近分かって来たそうです。
具体的な身体活動の実践方法は?
日本人のうち、運動習慣のある人は3割ほどです。約7割の人は運動習慣が無いことになります。生活習慣病に関係する内臓脂肪を減らすには、筋力トレーニングよりも有酸素運動が効果的なのはご存じの通りです。重いものをぐっと1回持ち上げるよりは、軽いものをゆっくり複数回持ち上げた方が効果があります。30分を1ぐらいの有酸素運動が脂肪を燃焼させるには一番効果的です。
厚生労働省が提唱している「今より10分多く、毎日体を動かしませんか」という『ココカラ(心と体に)+10(プラステン)』というアクティブガイドがあります。「プラス10で健康寿命を伸ばしましょう!」「プラス10から始めよう!」と呼び掛けています。私でもできるかも……とのやる気につながります。興味のある方は「厚生労働省 プラス10」等で検索を。
受講生感想
◆ 「動脈硬化はすでに小児期から生じている」の説明には驚いています。特に石灰化では、私自身先月右肩にたまった石灰が神経に触れ、強烈な痛みで眠れない日が5日間続きました。鎮痛薬により解放された時はほっとしました。この強烈な痛みに、我慢できない人は救急車を呼ぶそうです。石灰化予防も日々の生活活動の見直しも必要と痛感しています。
◆ 加齢とともに血管のしなやかさが減少し、プラーグが血管をふさぐ等画像診断図などで理解できた。予防のために身体活動の実践が必要なことも理解できた。長年早食い習慣が身についた者にとって口腔機能が大切であり、早食いは良くないとの指摘に改善する必要を感じた。昔の「ゆっくりの食事は仕事ができない人間」とか「戦争に負ける原因」とかは、隔世の話と思われた。身体活動時間では単独1回と回数区け合計との効果は同じと聞き、少ない時間で回数を重ねる方法なら実践できそうな感想を持った。
◆ 気になっていたことがテーマに取り上げられ、興味深く拝聴させて頂きました。コロナで自粛生活になる前、1年間余り週1~2回ジム通いし、中性脂肪値が下がりました。更に続けようとしたらコロナの感染拡大があり止めました。食生活もさることながら、本日の講義で改めて運動の大切さを実感しました。身体不活動が脂肪代謝やインスリンの働きを低下させ、長時間の座位で血流が悪化することはエコノミー症候群ぐらいの知識でしたが、高血糖、高血圧を引き起こし、強いては突然死につながる怖れもあるとのこと。深く考えないで、テレビを見ていたので怖いと思いました。生活活動+運動により生活習慣病を遠ざけることが可能になることも学び、アクティブガイド「ここから10分」を身体活動時(ウォーキングや体操)に取り入れようと考えています。しかし、「たかが10分されど10分」難しいかな?自問自答しております。